混声合唱のための
   「どちりなきりしたん」より T
    作曲: 千原 英喜

演奏:東京大学柏葉会合唱団


男声合唱のための
   「どちりなきりしたん」より T
    作曲: 千原 英喜

演奏:益楽男グリークラブ
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どちりなきりしたんT 楽曲構造分析まとめ 

1.楽曲構造分析

(1)曲想、テンポ、調、旋法*1


*2*3


(2)楽式*4・音楽様式*5・作曲技法の分析の試み


*6*7*8*9*10*11*12*13*14


(3)どちりなきりしたんT 転調ギミックの解析

どちりなT五度圏図*15

五度圏図*16の説明*17

「Gmから始まっ(て)、すべて…五度ずつの上昇をしている。」

「…シャープが一つ増えるということ…。調号の最初ってファに♯ですよね。次の調号っていうのは、そのト音記号のトに対して(ソに対して)ファにあたるドに♯が付くんですよね。ていう風に、♯が一つ付くってことはつまりファに♯が付くってことで、調号的に一個上の階層に上がっている(♯を「上」とするならば)。…一歩ずつ階段を昇っている…。五度圏の螺旋階段を一歩ずつ一歩ずつ神の道へ向かって歩いて行っている…。」



(4)教会旋法について

Q1.旋法ってなあに?

旋法*18とは、ディアトニック音階(ピアノの白鍵を並べたもの)から、例えば二音(第一旋法)などの特定の音を起点にオクターブの間の音程をとって並べたものと考えてよいです。どの音を起点とするかによって半音階の位置が変わってくるために、旋律の有する音の力学が変わってくるのです。
グレゴリオ 聖歌やオルガヌムは、教会旋法によっています。
中世の時代は長音階、短音階はありませんでした。つまり、ドを主音として、シ→ドという強い終止感を放つ半音進行をもった旋法はなかったのです。それゆえに、グレゴリオ聖歌の旋律は、主音に向けて強い方向性をもたず、独特の浮遊感を醸します*19


Q2.ミクソリディア旋法とは?

ト音(ソ)からオクターブを取った音階です。主音はソ、属音はレです。第七旋法とも呼ばれます。なお、留意点としては、別にソ以外の音から初めても構わないということがあります。ただし、その場合、ソから音階を始めるのと同じ全音と半音の構造にしなければなりませんので、♯や♭の臨時記号が必要になります。


Q3.グレゴリオ聖歌「Veni creator Spritus」は、もともと何旋法だったの?

オリジナルの「Veni creator Spritus 」は、ピポミクソリディア旋法(第八旋法)によって作られています。ミクソリディアとピポミクソリディアの異同についてですが、主音は同じです。異なる点は音域と属音です。主音が同じですので、共通点の方が当然重要です。


Q4.旋法と調はどう違うの?

16世紀になりますと、教会旋法に追加がなされます。すなわち、「イオニア旋法」(今の長音階)、「エオリア旋法」(今の短音階)の二つです(変格についてはここでは省略)。
つまり、長音階、短音階も、もともとは教会旋法の一つに過ぎなかったのです。

いわゆる調の音楽というのは、旋法としては、長音階と短音階を用いています。そして、それらを転調させることで色彩の対比や変化を狙うものです。


Q5.では、長音階・短音階以外の教会旋法は、廃れて歴史の遺物となってしまったの?

確かに一度は、廃れました。しかし、ロマン派以降、今度は調性音楽が廃れていく流れが起きていきます。調性音楽を乗り越えようとしたロマン派の一部の作曲家たちは、教会旋法に目を向け、実際に作品に活かして復活させました。また、ジャズにおけるモード奏法の流れもあります(モードとは旋法のことです)。

例1 ラヴェル(1875-1937),「亡き王女のためのパヴァーヌ」
冒頭の旋律など、長音階・短音階のいずれでもない旋法*20

例2 Miles Davis - Kind Of Blue
モードジャズの草分け。



2.その他


グレゴリオ聖歌の特色*21

  • 歌詞の側面だけに価値を置く(アウグスティヌスら)
  • 音楽的側面は「快楽的」であり、「罪」
     ↓

グレゴリオ聖歌の存在理由は神の言葉である歌詞
歌詞をもっとも生かす様式として単旋律となる

歌詞を覆い隠したり、音楽を助長する要素は締め出される。
※音楽を助長する要素 → ポリフォニーや複数声部、楽器など

註)

  • *1 テンポ、調については、吉岡理(著)「どちりなきりしたんT解説」
    http://masuraoglee.web.fc2.com/column/column014_5.html 及び2014/12/17「どちりな研究会」録音の下河原建太発言も参照した。
  • *2 マッテゾン(1681-1764)の調性格論。田村和紀夫 (著),「文化としての西洋音楽の歩み わたし探しの音楽美学の旅」,音楽之友社,2013年,86頁
  • *3 音楽マメ知識 調の特性 http://ww2.wt.tiki.ne.jp/~nk_sounds/mametisiki.htm
  • *4 【楽式】
    楽曲を構成する基本的原理を意味する音楽用語。音楽形式という場合もある…この意味をもつ楽式はさらに「基礎楽式」と「応用楽式」とに大別され、言及されることができる。
    基礎楽式
    旋律を中心に音楽をみた場合、その最小の単位は動機であり、それが発展して小楽節、さらに大楽節が形成される。
    応用楽式
    楽曲全体にわたる構成上の原理のこと…。
    以上、コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説[黒坂俊昭]より抜粋引用。
    https://kotobank.jp/word/%E6%A5%BD%E5%BC%8F-460249
    なお、2014/12/17「どちりな研究会」の吉岡理発言には示唆を受けている。すなわち「どちりなきりしたんT」の楽曲構造がソナタ形式等の西洋音楽の典型的な形式を取ったものと見えにくい気がするという趣旨の発言、および練習番号6の出だしが練習番号0の出だしと同型だとの指摘である。
  • *5 【音楽様式】
    「様式」は人間が対象を秩序付ける手法でした。作品の鑑賞者は、作品の様式を語るときに、手法の現実的な側面ばかりでなく、その質的な側面についても問題にすることができます。…、「様式」はジャンルとは違ってその内容である「着想」が問題になるのだ…。
    上田泰史「音楽と「様式」3」 http://www.piano.or.jp/enc/fb/view/92/
  • *6 【動機労作】
    動機…は、作品全体で何度も活用され、全曲に統一感を与えています。このような手法を「動機労作(または主題労作)」と呼びます…。「後期ロマン派の名曲(2)」YAMAHA学校音楽教育支援サイト
    http://jp.yamaha.com/services/teachers/music_pal/study/masterpieces/romanticism_5/ より抜粋引用。
  • *7 千原英喜「男声合唱のためのどちりなきりしたん」,全音楽譜出版社,2008年,62頁
  • *8 コトバンク 応唱 https://kotobank.jp/word/%E5%BF%9C%E5%94%B1-449052 
  • *9 田村和紀夫(著),「CD付徹底図解 クラシック音楽の世界」,新星出版社,2011年,88頁。
  • *10 アンティフォナ −Wikipedia 
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%86%…
  • *11 空虚五度 −Wikipedia
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E8%99%9A%E4%BA%94%E5%BA%A6
  • *12 下河原建太発言,「2015/2/22どちりなきりしたんT練習」
  • *13 田村和紀夫(著),「CD付徹底図解 クラシック音楽の世界」,119頁。
  • *14 田村和紀夫(著),「CD付徹底図解 クラシック音楽の世界」,93頁。
  • *15 下河原建太(著),「どちりな五度圏(簡易版)」より転載
  • *16 五度の積み上げの話については、拙稿「合唱対話篇 第5回 ピタゴラス音律ってなんだろう(2)」  http://masuraoglee.web.fc2.com/column/column001_5.html  を参照。
  • *17 下河原建太発言,2014/12/17「どちりな研究会」録音
  • *18 旋法の基本的な考え方については、拙稿「合唱対話篇 第7回 天体の音楽(2)−テトラコードと古代ギリシャ旋法−」
    http://masuraoglee.web.fc2.com/column/column001_7.html を参照。
  • *19 岡田暁生(著)「西洋音楽史」,放送大学教育振興会,2013年,37-40頁参照。
  • *20 笠原潔ほか(著),「音楽理論の基礎」,放送大学教育振興会,2007年,81頁。
  • *21 田村和紀夫(著),「CD付徹底図解 クラシック音楽の世界」,59頁。

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by KIN 2015/02/26 




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