無伴奏男声合唱組曲「今でも…ローセキは魔法の杖」より
 5.深い眠りに包まれて
作詞:柴野利彦  作曲:遠藤雅夫

演奏:益楽男グリークラブ
平成27年8月2日彩の国男声コーラスフェスティバル2015

演奏:益楽男グリークラブ
平成27年1月18日第26回埼玉ヴォーカルアンサンブルコンテスト
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今でも…ローセキは魔法の杖 研究会まとめin益楽男冬合宿


1.はじめに

本レポートは12月に2度行われた「どちりな・ローセキ研究会」にて発表された各レジュメーター渾身のプレゼンの中から、「深い眠りに包まれて」分を簡潔にまとめたものです。
SVECに向けて、益楽男の音楽作りの一助になれば幸いです。



2.詩について

【作詞者:柴野利彦】 レジュメーター: 史吟

本業はカメラマン兼ライター。環境問題、医学、企業、外国取材、著名人インタビューなど活動分野は幅広い。 「今でも…ローセキは魔法の杖」は楽譜まえがきにもある通り、ユーラシア大陸を1年かけて1周して戻ってきた(ご本人曰く「真っ白にリセットされた」)時期に書かれたもの。

童謡のように「日本人の郷愁を共有体験できる」詩を作る、というテーマを核に据えて制作された。子供の世界を中心としているため幼さは残るものの、誰もが通り過ぎる通過儀礼である「郷愁」共有したい。
※ローセキとは、子供が地面に絵を描くのに使うチョークのような道具だそうです。子供が地面絵を描いている場面を思うのもまた「郷愁の共有」ですね。



【詩と押韻について】 レジュメーター: KINさん

ショーペンハウアーの詩論・音楽論から導く合唱曲論

詩は「概念」を素材として構成し、「概念」は思想・情念など人間の特徴を表現するのに最適である。リズムと押韻を反復することによって、聴き手の心が規則的正しく共鳴する。 また、他の芸術が世界に存在する何らかの物の本質的な形を模写するのに対し、音楽は世界の本質をより直接的に表現する。詩が先にあり、後から詩に対して曲がつけられた合唱曲は、詩的表現の形で詩人が表現した事物の本質を作曲者が音によってより直接的に表そうとする芸術作品であるといえる。 詩は概念を使用するため間接的な模写となるが、音楽にはその間接性がない。

九鬼周造の押韻論

上記の「リズムと押韻を反復することによって聴き手と共鳴する」にあたり、押韻は効果的な手法である。現代音楽のラップにも通じるが、「韻を踏む」ことで詩に統一感を持たせ、またリズムを共有しやすくし、聴き手の耳と心に残る詩となる。
「深い眠りに包まれて」の歌詞は見てもわかるとおり、段落単位で押韻が繰り返されている。
逆に「きっときっと…」からは押韻を意識しているようには見えず、曲のクライマックスに向けて形式にとどまらない表現をとることで、何らかの意図を込めたものではないかとの推測も出来る。



3.音楽について

【作曲者:遠藤雅夫】 レジュメーター: 小池

合唱曲の作曲家というわけではなく、現代音楽作曲家としての活動が主体の作曲家。合唱曲作曲に当たっては売れる曲・コンクール向きの曲をつくることよりも「歌詞の音楽的翻訳を考える」ことに重きを置いており、また「大編成合唱団の音を追求する」タイプの作曲家である(明治大学グリークラブ委嘱初演が多い)。

作曲にあたっては、音楽の中で日本語のイントネーションをいかに自然にするか、という点に注力し、自ら指揮を担当する際は、ハーモニーの中でのメロディーラインの聞こえ方・その強弱に重きを置いていた。


【曲の調性】 レジュメーター: 吉岡理

5回の転調、6つの調を用いて「時間の経過」を表している。

A-dur → Cis-mol → A-dur (調合変化) Des-dur → F-mol → Des-dur

ほとんどが単一調の曲ばかりである組曲において、特殊な構成の曲。他の曲は幼いころの一瞬を切り取るような詩であるが、本曲に限っては「時間の経過」あることに着目したい。

【曲の変奏】 レジュメーター: 吉岡理

作曲者はこの詩の世界を描くために3つの旋律を使っている(仮にA、B、Cメロとする)。ざっくり表すと「1番→2番→変奏メロディー→大サビ」という現代のPOPS曲などでも一般的な構成となっており、詩の定型性(上記押韻論など)を利用して、同一の旋律に異なる意味を持たせている。特に冒頭と終盤のA、Bメロについては全く逆の意味になっているのが印象深い。
 →幼年期の終わりと成長の始まりを表している?


4.まとめ

「深い眠りに包まれて」は良い意味で型にはまった「詩と旋律の反復」により一見平易な音楽のように見えるが、詩を読み解けばそこには”成長”という「時間の経過」があり、それは音楽面で5回もの転調により表現されている。

転調の度にひとつずつ時間の流れを感じながら音楽を進めてゆき、誰もが体験したことのある郷愁を呼び起こすような密な音楽が出来ればと思う。


by  さぶれ 2015/01/16 




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