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No.12 益楽男に新時代がやってくる


3月も一週間が過ぎた。ふと気になって過去の手帳を調べていて気がついたのだけれど、僕が益楽男で、アンサンブルトレーナーとして初めて練習をしたのが2014年3月8日。ちょうど2年が経つ。ちなみに昨年、2015年の3月1日が、僕の振った「春こん。」の本番で、そこまでが1期目。3/29の日曜日にその後最初の練習をしていて、そこからが2期目という感覚がある。当初この「もが セカンドシーズン」の初回は3/21に組まれていたのが、都合2回の変更を経て今の日程になっているので、記念的にはちょっと惜しかった。(ちょうど、どちらも1年に1週足らずな間隔なので、それはそれでいいのかもしれない。)

区切りというのは、大切にしたくなる。特に音楽は、比較的長期的な成果を目指していく反面、ひとつひとつの練習や行動は小さなもので、ある種刹那的ですらある。その刹那を巨大な成果へと、想像の軌跡で結びつけることはとても難しい。漫然と繰り返していては、バラバラのままの瞬間瞬間がただ置き去りにされてしまうように思う。その意味でも、演奏会という「〆切」は、区切りとしてわかりやすい。それ自体が目標としての性格がはっきりしているし、演奏会当日に何が起こるか思い浮かべることは、そのまま、目指す成果としての音楽そのものを思い描くことを大いに助けてくれるように思う。

昨日、第2回演奏会のリハーサルが行われた。本番の会場ではないが、小さなホールに集まり本番当日を想定したタイムテーブルで、練習と通しの演奏をしていく。

その前夜、僕はひどく緊張していた。夜中まで寝付けず、気が鎮まらない。なんとかやるべきことをこなし、最低限の眠りはとった。朝の目覚めは悪くはなかったが、やはり落ち着かないまま家を出た。行きの電車は、何かしなければと気が急くばかりで、何をするにも、一向に手につかない。すっかり浮き足立ったまま、リハーサル会場のある東大宮駅のホームに降りた。

僕にとって今回のリハーサルは「本番」だったらしい、ということにはっきりと気付いたのはその時だった。本番のつもりで臨もう、とは考えていた。だけれども、身体と心もまた、自然と「本番」を前にしてプレッシャーを感じているのだと、改札に続く階段を登りながらようやく自覚した。

本番と見定めたということは、つまり僕にとっての明確な区切りの日だったのだろう。その区切りの日の音楽は、悔しいものだった。やるだけのことをやった。精一杯の音楽をした。その上で求める音楽と現実に演奏できた音楽との「開き」を認めた時、ただ悔しさが込み上げてきたのだ。それはとても素直な心の動きで、白状してしまうと、そんな自分に一寸驚いた。驚き、安堵した。「よかった、今僕は本気なのだ」と。

「リハーサルだと仕方がない」と思ってしまったとしても、それは自然なことだとは思う。リハーサルでダメだったことは、本番で改善すればいいと。僕だってそういう考えは持っている。だのに今回は、そうはならなかった。終わってみても思う。今回のリハーサルはひとつの「本番」だった。そしてその日に、僕はみんなの音楽を導き切れなかった。そんなひとつの「失敗」を、確かに体験したのである。

***

こう書くと、まるで酷い1日だったように聞こえてしまうかも知れない。だがそうではない。それどころか、すっかり素敵な1日だった。

朝、緊張を自覚した僕は、駅の改札を出ると足を止めた。このままでは「音楽」ができないのは目に見えていた。団員のおかげでタイムテーブルよりも巻きで進行できていた。その分、練習も早く始められる。そこには間に合いたい。でも、今のままの呼吸では、すぐに音楽の呼吸にならないのは明白だった。

ふっと喫茶店の看板が目につく。写真に、美味しそうだなと、心が動く。10分少し。思い切ってお店の方へと足を向ける。

こういう時に、一呼吸置けるようになったな、と思う。動揺している自分に区切りをつけて、気持ちと呼吸を宥めていく。心に小さく灯った幸せを、素直に、ひとつずつ見つけて、掬い上げていく。会場までの道をゆっくりと歩く。辺りを見回し、景色を楽しんで。これから過ごす音楽の時間に、期待を膨らませて。

リハーサルは目まぐるしく過ぎ去り、今の気持ちを、心の熱を、全てをぶつけて、そうして酒を呑み、語らい……これで幸せでないだなんて言えるだろうか?

***

1人の団員さんに、リハーサル後の飲みの席で、声を掛けて頂いた。

「もがさん、エポックだよ」

そう熱く語る表情は、込み上げるものを噛み締めるようだった。噴き上げた感情をやっとのことでひとつの言葉に押し込めたかのように、繰り返し、強くそう言ってくださった。

epoch、「新時代」

「天球の調和」は、何か新しいところへと僕たちを連れて行ってくれると思わせてくれる、鮮烈な組曲だ。そんな音楽を前にして、僕は今、熱く没頭している。そして、その温度を感じ取り、共有してくれる仲間がいる。
僕にとって今が、まさに集大成の時なのだ。そう確信させられる。音楽家としても、ひとりの人間としても。今、大きな区切りを迎えつつあることを感じている。

区切りとなるその日は、3月21日。そしてひとつの終わりは、次なる始まりを期待させてくれる。エポックが、新しい季節がやってくる。

by 下河原建太  2016/03/07



来たる平成28年3月21日(祝・月)にさいたま市文化センター小ホールにて演奏会を開催します。
詳細は、演奏会特設ページにて! ▼

益楽男グリークラブ第2回演奏会特設ページ




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