無伴奏男声合唱組曲
「今でも…ローセキは魔法の杖」より
5.深い眠りに包まれて
作詞:柴野利彦  作曲:遠藤雅夫

演奏:益楽男グリークラブ
平成27年1月18日第26回埼玉ヴォーカルアンサンブルコンテスト

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「深い眠りに包まれて」解説


この「深い眠りに包まれて」を含む男声合唱組曲「今でも…ローセキは魔法の杖」は、子供時代の回想をテーマとしています。 「男らしさ一辺倒の男声合唱に異なるテイストを」と思った作曲者は、難解な現代作品の作曲技法を持っているにもかかわらず、それを封印し、詩に寄り添ったシンプルな作曲で、作品テーマを見事に浮き上がらせました。


個々のフレーズは日本語のイントネーションに沿うことを重視しているため、そこに作曲者の意図はあまりないように思います。むしろ、全体的な曲構造にこそ着目すべきでしょう。


無伴奏男声合唱組曲「今でも…ローセキは魔法の杖」より 5.深い眠りに包まれて
作詞:柴野利彦  作曲:遠藤雅夫


演奏:益楽男グリークラブ
平成27年8月2日彩の国男声コーラスフェスティバル2015


調性

この組曲はほとんど単一調で、転調がありません。ですが、この「深い眠りに包まれて」は5 回も転調し、合計6 つの調を用います。 具体的には下記の通りです。西洋音楽の形式に沿った模範的な構造と言えるかもしれません。


A-dur → Cis-mol → A-dur (調合変化) Des-dur → F-mol → Des-dur


他の曲は幼い頃の一瞬をスナップ写真のように切り取った詩ですが、この詩だけは時間経過があり、その描写のために多くの転調を必要としたのでしょう。



旋律の変奏

作曲者は、この詩の世界を描くために3 つの旋律を使っています。「深い眠りに〜」「誰も触れない〜」「晴れやかな〜」の3 つです(歌詞を色分けして提示したいのですが、著作権的に×でしょうから、この表記でご理解ください)。

「深い眠りに〜」と「誰も触れない〜」は、「晴れやかな〜」の旋律に揺さぶられ、ゆっくりと高揚・変化していきます。器楽の主題展開というスケールではありませんが、同一の旋律が音形を変えながら、異なる詩で歌われる――合唱流の変奏と言えるかもしれません。

詩の定型性を利用して、同一の旋律に異なる意味を持たせているわけです(もちろん言葉のイントネーションや曲想に合わせて少し変形していますが)。 特に「深い眠りに〜」と「誰も触れない〜」の旋律が、冒頭と終盤で真逆の意味になっているのは非常に印象的です。最後に出てくる「誰も触れない〜」の旋律には「世界が〜」という歌詞があてられ、組曲中最も大きい音量のクライマックスになっています。 子供時代の終わりと成長の始まりをここで描くために、組曲全体が構成されているのではないかとすら感じます。

したがって、演奏者は同一旋律の処理方法、曲想変化のメリハリを工夫することで、この曲の魅力を引き出せるのではないでしょうか。



by Bartone 吉岡理 2015/01/10 




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