男声合唱のための
   「どちりなきりしたん」より IV
    作曲: 千原 英喜

演奏:男声合唱団 羅面琴


混声合唱のための
   「どちりなきりしたん」より V
    作曲: 千原 英喜

演奏:大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団


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Vol.11-6 千原英喜の世界観


※本レジュメは千原英喜・間宮芳生の両氏の作品作風の比較を主眼に置いたものでありますが、その範囲を合唱作品にとどめてあります。 これは、もちろん両氏ともに器楽作品を手掛けているのは承知の上で、両氏が合唱作品の「テキスト」をどのように捉えているかの比較にズームアップすることを目的としたためです。


千原氏は東京藝術大学音楽学部作曲科卒業、同大学院修士課程修了。間宮芳生に師事。

日本の伝統音楽や古典に取材し、それを西洋の音楽(特にキリスト教の聖歌)と結びつけることが特徴の一つである、とされています。


指揮者:伊東恵司氏のコメント(下線は本レジュメ作成者による)
・・・日本の合唱界には、「千原以前」「千原以後」という時代分けのようなものが存在するようにも思います。 個々の素晴らしい楽曲そのものもさることながら、一般的には西洋音楽や教会音楽というものを重要なルーツとする「合唱音楽」に対し、我々民族のアイデンティティ(文化的環境、生活習慣、リズム、歴史観、世界観、音楽観)のようなものをどのように対峙させるのか、我々は何のために歌うのか、という命題について正面から向き合わされているということに、私も合唱人として大きな影響を受けました。 また、その問いに対しては、頑なな理屈ではなく、アカデミズムすらも軽く乗り越えて、音楽家として溢れる豊かなイマジネーションを持って向き合い、自由な発想でチャレンジされているところが「千原作品」が多くの人から愛される所以ではないでしょうか?
結局、テキストが何であれ千原作品にはいつも歌に「祈り」や「魂」や「思い出」や「夢」や「希望」や「勇気」を感じるのです。
(中略)千原作品を反復することによって、わが国における「合唱音楽」というのはどうあったほうが良いか、歌とは何か、歌うとはどういうことなのか、人生とは何か、人生の中で歌には何が果たせるか・・・、という始原的な問いと向き合うことになると思うのです。 歌や人生の素晴らしさを千原作品が教えてくれるでしょう。(後略)1



「師の間宮芳生譲り」と作風が評されることもあります。間宮作品ももちろん、「西洋音楽」をベースに「日本的なもの」を融合させた作品であります。

間宮氏は合唱作品である「合唱のためのコンポジション 第一番」の原点を「ハヤシコトバの分類作業」と述べています。


間宮芳生のコメント(下線は本レジュメ作成者による)
・・・まず1955年頃、独唱とピアノのために日本民謡集をとの作曲の依頼を受けた。そこで、素材さがしに民謡の数々を聴いて調べはじめた。 そしてたちまち、ほぼすべての民謡の詞に、さまざまの形、自由気ままなひびき(音韻)でちりばめられているハヤシコトバ、かけ声の類の面白さに魅きつけられた。 なにしろ歌ううために案出された、意味から解かれて躍動する言葉は、音楽として実に魅力的でエネルギーいっぱいだ。そこで、ノートを一冊用意しそれらを集め、リズムや音韻などによる分類作業を始めた。 [A]すべてハヤシコトバのみの唄のうち、すべて旋律によるもの。[B]すべてハヤシコトバのみで、旋律のないかけ声だけの唄。[C]唄のはじめの一声だけ「ハァー」などのかけ声のある唄。等々やって見ると、あっという間に[A]から[Z]まで二十数種になった。 しかし、気がつくと、作業は分類を通り越して、ハヤシコトバをテキストに、どんどん合唱の曲が仕上がっていく。こうして生まれたのがコンポジション第一番(1958年)だ。2

間宮氏がテキストに「意味」よりは「音素材」としてのアプローチで接してきたことがうかがえます。

一方で千原氏は、「カンティクム・サクルム」などにおいてハヤシコトバの音響の妙を利用することはもちろんですが、「リグ・ヴェーダ」「おらしょ」「どちりなきりしたん」などの聖典・「東海道中膝栗毛」などの古文・「ある真夜中に」などの近現代詩にも作曲しています。


師である間宮氏が西洋音楽に乗せて「日本語の音響」を融合させたように、千原氏は特に西洋音楽の中でも教会音楽を意識し、そこに「日本語の意味」を融合させたといえるかもしれません。




1 ジョバンニ・レコード事業部「カンティクム・サクルム 千原英喜 男声合唱作品集」ライナーノーツより
2 21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」事務所 「 間宮芳生の仕事 Tokyo Cantat 2011」ライナーノーツより


by 小池 2014/08/04 




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