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移動ド唱法について

ステップ0:始めに

目的

音符と音符の相対的な高さに、階名という目印をつけることです。

長所

音取りの速度や効率が上がります。
(上達すれば)初見で歌えるようになります。
(皆で使えば)音程が揃いやすくなります。

短所

未経験の取り組みなので、一時的に音取り効率が落ちます。もどかしく感じると思います。
階名の書き込みが必要なため、面倒です。

注意

現代の難曲では必ずしも万能ではありません。
不協和音や部分転調の多い曲では、やはりMIDI が必要です。
ただ、MIDI で音取りをしてから、音程を整理するのに使えます。


ステップ1:音の表記方法

まず、音の表記方法を明記しておきます(ご存知の方も、念のためご確認ください)。


音名(絶対音)はドイツ式です。



白鍵  「C ツェー D デー E エー F エフ G ゲー A アー H ハー」

黒鍵♯「Cis ツィス Dis ディス Fis フィス Gis ギス Ais アイス」

   ♭「Des デス Es エス Ges ゲス As アス B ベー」

ちなみに C♭Ces ツェス、E♯ Eis エイス、F♭Fes フェス、H♯His ヒスです。


階名(相対音)はハンガリー式です。

「ドレミファソラシド」を「ドレミファソラティド」と表記します(理由は後述)。

音名(絶対音)、階名(相対音)とは?
音名: どんな調の曲でも、C と言えば、図の左端の音を指します(調については後述)。
階名: 調の主音(ド)に対する相対的な高さで同じ音でも読み方が変わります。
 例えば、C をドとする調では E はミと読みますが、D をドとする調ではレと読みます。

調名はドイツ式です。

長調は○-dur ドゥア、短調は○-moll モルと表記します。 ○ には調の基準音が入ります。

調とは?

 基準音から「全音 全音 半音 全音 全音 全音 半音」と上がる長調音階(ドレミファソラティド)
 基準音から「全音 半音 全音 全音 半音 全音 全音」と上がる短調音階(ラティドレミファソラ)
 この 2 種類です。そして C だけでなく全ての音が基準音になれます。
 ドレミファソラティドは、たくさんあるとご理解ください。



ステップ2:ドを探そう

ト音記号、ヘ音記号の右側に、♭や♯が付いてますよね(これを調号といいます)。

・何もなければ、C がドです。
・♭が付いてたら、一番右側の♭がその調のファです。「ファミレド」と下がりましょう。
・♯が付いてたら、一番右側の♯がその調のティです。「ティド」と上がりましょう。

※早見表を付けますが、能力向上のため、きちんと覚えましょう。



移動ドは長調読みです。短調の曲も長調で読みます。早見表の通り、一つの調号で、長調と短調が一つずつ出来るため、相互に読み替えが可能です(つまり A-moll の曲は C-dur で読めるわけです)。
そして、長調の方が圧倒的に読みやすいため、こちらが基準となります。



ステップ3:階名を書こう

ドの位置が分かったら、そこを基準に全ての音符に階名を書きます。書き方は下記の通り。


【通常音】(大文字で書きましょう)

ド  =  D
レ  =  R
ミ  =  M
ファ =  F
ソ  =  S
ラ  =  L
ティ =  T


【臨時記号がついたら】(大文字+小文字で書きましょう)

D ♯ =  Di  ディ
R ♯ =  Ri  リ
F ♯ =  Fi  フィ
S ♯ =  Si  シ (ここでシが出てくるので、普通シと読む音をティと読みます)
L ♯ =  Li  リ

R ♭ =  Ro  ロ
M ♭ =  Ma  マ
S ♭ =  Fi  フィ (S♭はあまり使われないのでF♯認識で大丈夫です)
L ♭ =  Lo  ロ
T ♭ =  Ta  タ


臨時記号音にだけ小文字を振ると、通常音と区別しやすいです。カタカナだと紛れてしまうので、通常音は大文字のみ、臨時記号音は大文字と小文字で書くのがいいと思います(ただ、この資料では音名のD(デー)、階名のD(ド)などの混同を防ぐため、カタカナで表記します)

この書き方は、あくまでも私の流儀で、絶対のルールではありません。皆さん自身が読みやすい書き方は、皆さん自身で考えてください。ただ、色分けはした方が読みやすいと思います。そして、消せるボールペンのフリクションが大変有効です。私は回し者ではありませんが、是非ご購入を。



ステップ4:転調による読み替え

転調するときは、移動ドの読み替えが必要です。早稲グリ版の早稲田大学校歌で説明します。
この曲は、3 番冒頭でC-dur からF-dur に転調します。そこで移動ドの読み替えをしてみましょう。



└→転調1 拍目をC-dur のまま、2 拍目からF-dur で読んでみました。他にも…




└→転調直前の拍からF-dur で読む方法もあります。



転調はこのように、前の調を後ろへ、後ろの調を前へ持ってきて、読み替えやすい箇所で新しい調の階名に切り替えます。読み替える箇所に決まりはありません。自分が読みやすければ何でもOKです。



ステップ5:部分転調による読み替え

まだ問題があります。調号は変わらないけど臨時記号の付き方に法則がある=部分転調です。

この場合、臨時記号として読むか、臨時記号を調号と見なすか、読みやすい方を選びましょう。 後者なら、振られてる臨時記号から調号を推測してください(早見表が使えます)。



└→例えばこんな曲なら、H にのみ♭が付いてますから、F-dur の部分転調で読めますね。もし…




└→こうだったら、どうでしょう。D♯F-dur のリですが、D♯E♭と見なせば、HE に♭がつくB-dur です(読みやすければ、音名の♭や♯だって読み替えていいと思います)。


他にも、「調号はないが、臨時記号で調が作られる」書き方もあります(嶋みどりの「落下傘」、信長貴富の「一詩人の最後の歌」など)。これも同じように対処するしかありません。こういう場合も早見表が使えます。



ステップ6:移動ド唱法実践

では、先ほど例示した「都の西北」3 番で実践してみましょう。




  • 始めに、曲の調を確認して移動ドを書き込みます(上述通り、色分けした方が読みやすいです。
    フリクションペンだと書き直せるので、なお良しです)。

  • その調のドレミファソラティドを歌い、体に染み込ませ、歌い出しの音で止まります。
    この場合は、C の音=F-dur のソです。

  • 冒頭の「あれ」は音名だとCF、階名だとソドです。
    ソと発音しながらC の音を、ドと発音しながらF の音を歌います。

  • ソドの跳躍ができない場合は、F-dur の音階を取り直し、ソラティドだけ何度も歌いましょう。
    慣れてきたらラティを除き、ソドだけ歌ってみましょう。

  • おそらく次に引っかかるのは、2 小節目3 拍目と4 拍目の間でしょう(歌詞「のと」・階名ソミ)。
    ここも、ソファミと歌ってからファを抜いて音を取りましょう。

  • 3 小節目3 拍目と4 拍目の間も同様です(歌詞「のも」・階名ミラ)。
    ミファソラと歌い、ファソを抜きます。

  • 階名で歌えるようになり、音が体に入ったら歌詞で歌いましょう。

ぶっちゃけ「まどろっこしい」と思った方もおられるでしょう。ただ、ここでソド、ソミ、ミラの跳躍を覚えられれば、次に出てきたとき応用が利きます。
こうやって音の跳躍を体に入れ、音取りの効率と正確性を向上させるのが、移動ド唱法の狙いです。

by バリトン・吉岡理 2014/10/05 




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