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Vol.10-1 指揮をさせていただくにあたって


皆さま、こんにちは。
今年3月に益楽男の団内で彩の国男声コーラスフェスティバルのステージを担当する指揮者の募集がありました。 意を決して立候補したところ、なぜか2015年埼玉県合唱祭の指揮者に当選した吉岡です。

 
今回の文章では、歌い手として感じてきたこと、実践してきたこと、それに曲の指揮をするにあたって試してたいことを書いてみます。


私は大学から男声合唱を始めましたが、当時は技術を軽視(というか敵視)して、歌に想いを込めることを重視していました。振り返ると、声を喉で掴んで自己陶酔していただけで、恥じ入るばかりです。


そこに気づかぬまま社会人合唱団に入ると、仕事等の都合から自由な時間も減ることもあり、学生のノリでは続けられないことが分かってきます。それでも、歌いたいという気持ちは抑えられません。何故自分は歌うのか、どんな歌を歌えばいいのか、中高生の部活のような自問の日々が続いていた頃、益楽男ではありませんでしたが、とある団の打ち上げでキツイ言葉をかけられました。


「なんで“合唱”やってんの?」


そんなに気持ち良くなりたいなら一人で歌えばいいんじゃないかな?という問いかけでした。そのときようやく、自分のやってきたことが「独唱の集合体」だったことに気づきました。私は本当の「合唱」をやろうと模索を始めました。他パートとのユニゾン箇所をチェックして音量を絞り、和音の1・3・5を書いて自分の役割を確認し、パートに溶け込む発声を探求しました。


そして、自分なりの音楽作りの原則を見つけました。それをご紹介したいと思います。


@主旋=担当パートは責任重大、伴奏パートはバックアップに回る

まずは、主旋がきちんと聞こえることです。主旋を担当するパートは「きちんとお客様に届けなきゃ」という意識を強く持ちましょう。まず伴奏パートから「なるほど」と思ってもらえる歌を堂々と歌いましょう。伴奏パートは「代表としてきちんと歌ってよね」という目で主旋パートをしっかり見守りましょう。とはいえ作曲者が選抜した主旋パートですから、盛り立てて伴奏に専念してください。


C発声=意識すべきは横隔膜、排除すべきはノドの手応え

極論ですが、発声の問題が解消されれば技術面は6割方解決です。意識すべきは横隔膜(胸と腹の間にある呼吸制御の膜)です。これを体内で下後方に張ります。声を出すというより、吐くイメージ。二日酔いの朝、腹から七色のアレが上がってきたときを思い出してください。腹の力だけで出て行きますよね。あの感覚です。こうして発せられた声は、化粧っ気のない「すっぴんの声」です。これを目指しましょう。


B発音=母音は柔らかく、子音は拍前で長く

歌うとき、歌詞を聴かせようという意識が働きますが、ここで母音を固く発音しがちです。イエアオウの母音の三角形を意識しながら口を前後に使い、頬の筋肉は緩めましょう。母音は少し不明瞭になりますが、子音がちゃんと聞こえれば、組み合わせでお客様は理解できるものです。
なので子音の処理はとても重要です。聞こえにくい子音、強くなりがちな子音、いずれも長く優しく処理してください。ただし曲の推進力を維持するため、全て拍前処理でお願いします。


C拍節感とテンポ

曲の推進力は拍節感とテンポで生まれます。まず拍節感を大事にしましょう。
信長 貴富先生作曲の「ヒスイ」で言えば、8分の6拍子のオモテ拍は1と4です。2、3、5、6は独特のウラ拍になります。1と4は沈む拍、2と5は浮かぶ拍、3と6は次に突っ込む拍です。特にパートソロではこの感覚が重要です。拍の性質に合わせてきちんと譜割りしていますから。テンポは、高速道路を走るように常に一定。


D和音

和音については、伴奏パートが意識してください。まずはユニゾン、次に1度と5度の結びつき、そして低めに取る長3度、高めに取る短3度です。7度や9度はぶつかるので、恐れず堂々と。その時々の役割を各パートが果たせば、自然とハモることでしょう。初めは、他パートとのアイコンタクトをかなり意識的にやってください。ハモる感覚を掴めば、いずれ無意識にできるようになります。


Eフレーズ感

音楽を高速道路に例えれば、道路上に点在する坂がフレーズです。フレーズの歌い出しは上り坂で、アクセルを踏み込んで加速し、勢いをつけます(加速してようやく速度を維持できる)。歌い終わりは下り坂で、少し緩めて加速を抑えます。フレーズは作曲者がスラーで指示することもありますし、演奏家が独自に設定することもあります。基本的には、歌詞の一文章が一つのフレーズということでよろしいかと。

※ここまでは自分自身の経験則で確認してきた部分です。ここから先は、私もまだ試したことのない領域で、全てが曖昧です。一緒に探求させていただければ幸いです。


作曲意図を推測する

私は15年男声合唱をやってきましたが、これまで「作曲意図を音から読み取る」という音楽作りはしたことがありません。専門の教育を受けていない素人が踏み込むべきではないかもしれませんが、やってみて損はないと思います。コード記号をふり、曲がどのように変わっていくか、類似した箇所はないか、同じ和音が象徴的に使われていないかなどを調べます。そして和音の並び方、歌詞、拍子やテンポなども考慮して、作曲者が描こうとしていることを推測していくのです。


表現を工夫する

そうして作曲意図にアタリをつけたら、それに一番沿った音色など、表現を考えていきましょう。
組曲内での曲の連続性についての解釈等、具体的な表現に落とし込めないイメージの領域でも、できることがあると思います。

以上のような取り組みで、曲の魅力を最大限に引き出すことが出来るのではないかと思っています。曲の魅力を最大限に引き出すことは、その曲に取り組んだ合唱団にとっての大きなやりがいの一つではないかと思います。あまり整っていないドタバタしている演奏ではお客様の方もなかなか曲に集中できませんから、技術の追求はできる限りしていきたいです。しかし、そこに「俺たち、私たち頑張っているでしょ?」という腕自慢が出てくると、ちょっと逆効果にもなりかねません。どんな努力を重ねても、苦労を匂わせず、さらっと流す――カッコいい「大人の男声合唱」を目指しましょう。

乱筆・乱文、失礼しました。限られた練習時間の中では系統立てて話せないと思い、文章にさせていただきました。
一介の歌い手としてはこういう取り組みをしてきましたが、指揮や曲の表現作りをしていく立場では上手くできない部分も多々あると思います。お力添えをよろしくお願いします。


by バリトン・吉岡理 2014/07/18 




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